小説

『井上くんへ』

井上くんに手紙を書いている。 便箋はいつしか十字キーに変わり、真っ平なガラスのキーボードになってからもずいぶん経った。今便箋と言ったけれども、実のところぼくらの世代なんかがまともに文通をしたはずもなく、実家の引き出しで目にした黄ばんだ紙の束…